事業は、買える人にしか売られない

この記事についてAbout this article

ゴールGoal 個人に事業承継の道がどこまで開くか

こんなあなたへFor you if 事業を買いたいが窓口も融資も知らない方

この記事の要約Summary

事業承継の窓口・商工会議所・日本政策金融公庫を回った記録です。個人にどこまで道が開くのかが分かります。

所要時間Time
6分
必要な準備What you need
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先に読むとわかりやすい記事Read these first この記事で先にStart here 売るものが、何もなかった

お茶の事業を買おうと決めて、事業承継の窓口をまわった。 準備をして、書類をそろえて、取次ももらった。 それでも最後に問われたのは、実績と資金だった。

※2026年9月時点

事業は、買える人にしか売られない。承継センターは取次が無いと会えない、商工会議所では取次はすんなり出た、センターの面談ではマッチングは5%ほど、政策金融公庫では条件を決めるのは実績

窓口をまわり、事業計画書を書き、取次ももらった。それでも最後に問われたのは実績と資金で、事業は買える人にしか売られないと分かる。

1. まず、断られるところから始まった

お茶の事業を始めたいと思って、事業承継を探すことにした。 独立してみたら手元に売るものが何もなく、それなら事業ごと買えばいいと考えた——ここまでが前の回の話だ。

くわしくはこの記事で売るものが、何もなかった売るものが無いまま、事業ごと買おうと考えた話はこの記事にあります。

最初にやったのは、事業承継・引継ぎ支援センターにWebフォームを送ることだった。 神奈川県のセンターから、すぐに電話がかかってきた。

結論は単純だった。 センターでは直接の受付をしていない。 紹介や取次がなければ、打合せもできないと言われた。

センターの案内には「どなたでも無料で相談できます」と書かれている。 無料なのはそのとおりで、取次さえもらえれば誰でも相談できる。 ただ、その入口の作り方は都道府県のセンターによって違うらしく、直接受けてくれるところもあるようだ。 私が問い合わせた神奈川では、取次が要るという回答だった。

後になって知ることだが、その背景には、事業計画を何も検討しないまま承継の登録をしたいという人が後を絶たない、という事情があるらしい。

2. 事業計画書を書いて、取次をもらう

そこで私がやることは2つになった。 自分の考えを事業計画に落とし込むこと。 そして、取次をしてくれる商工会議所と打合せの日程を調整すること。

事業計画書は、2〜3日うなりながら作った。

商工会議所では、その計画書をもとに取次をしてもらえた。 思っていたよりスムーズだった。 おそらく、実際に承継をしようと意気込んで資料まで作る人が、圧倒的に少ないのだと思う。

3. 「マッチングするのは5%です」

そうして事業承継・引継ぎ支援センターに行くと、冒頭でこう伝えられた。

マッチングするのは、5%ほどです。

つまり、センターがあり、承継先が見つからない会社がたくさん存在しているにもかかわらず、そのほとんどは成立しないということだ。

自治体によって状況は違うのかもしれない。 ただ基本的には、個人向けではなく法人向けのマッチングをしているらしい。

4. 宇治まで行って、また戻された

このあと、京都に行った。

目的は宇治である。 抹茶をやろうとしている以上、産地の現状は自分の目で見ておきたかった。 Webの案件一覧を眺めているだけでは、たぶん何も分からない。

そして、せっかく来たのだからと、京都の商工会議所にも立ち寄った。 こちらに案件はないだろうか、と。

そこで分かったのは、県によって案件をデータベースに上げるところと、上げないところがある、ということだった。 承継案件の案内の仕方は、県ごとにまちまちらしい。

京都は全件を上げているそうだ。 ただ、こう言われた。

「登録してくれている神奈川県で見てください」

産地まで足を運んでも、案件の話になれば、自分の登録先に戻される。 窓口は全国にあるのに、自分が見られる棚は最初に登録した1つだけだった。

5. なぜ、個人には回ってこないのか

理由は3つあった。

  1. 専門ではない領域はマッチングしない
  2. 売り手にはインセンティブが必要になる
  3. 出てくる案件を、個人では引き受けられない

① 専門ではない領域はマッチングしない

センターで扱う案件は、経営者が高齢である場合や、経営が傾いている場合に出てくることが多いらしい。 そこに、畑違いの人間が手を挙げても話は進まない。

② 売り手にはインセンティブが必要になる

事業を売る以上、売り手は相応の対価を求める。 その金額は、数千万円になるのが一般的なようだ。

③ 出てくる案件を、個人では引き受けられない

そして、実際に出てくる案件の中身である。

ひとつは、規模が大きすぎる案件。 個人ではなく、法人でなければ引き受けられない体力を求められる。

もうひとつは、赤字を抱えている案件。 立て直しの前提で出されているもので、そこにも資金がいる。

新しく入ってくる人間に紹介できそうな案件が、ほとんど出てこない。

結果として、私は登録だけはした。 でも、待っていても案件は出てこないだろうと思った。

色々と準備をして、色々と調べた。 それでも事業承継で見られるのは、結局のところ信用か資金力だった。 承継という名目でうまくいくケースは、Webページに掲載されているような事例だけなのだろうと思う。

6. 「継ぐスタ」と、融資の話

商工会議所で教えてもらったことがある。 センターとは別に、日本政策金融公庫が「事業承継マッチング支援」をやっている。 公庫は、事業を受け継いで始める創業のかたちを「継ぐスタ」と呼んでいて、このマッチングはその手段のひとつという位置づけらしい。

登録はWeb上で完結する。 ただし、入力を求められる内容は事業計画と同等のレベルだった。

日本政策金融公庫からは、特段のコメントはなかった。 ただ、融資の条件について間接的にコメントをいただいた。 これが参考になったので書いておきたい。

  • 創業融資としては、最大で7,200万円の枠がある
  • 経営者保証を付けずに借りられる枠がある
  • 私の場合は、IT・AI等のシステム開発案件を続けることで、融資条件が変わるという話だった

※2026年9月時点。制度名は「新規開業・スタートアップ支援資金」。

7. 経営者保証が外れた、という変化

ここは調べてみて、自分の理解が更新された部分なので書いておきたい。

事業を買うとなれば、その事業を引き受ける法人を作ることになる。 借りるのはその法人であり、返すのもその法人だ。

経営者保証とは、その法人が返せなくなったときに、経営者個人が肩代わりする約束のことである。 かつては、これが創業融資の当たり前だった。 会社を畳んだら、個人の財産も一緒に飛ぶ。

それが、国の「経営者保証改革プログラム」で変わってきている。

  • 日本政策金融公庫の経営者保証免除特例制度:要件を満たせば経営者保証が免除される。金利の上乗せはない
  • 信用保証協会のスタートアップ創出促進保証(2023年3月開始):創業予定者や創業5年未満が対象。限度額3,500万円、経営者保証は不要。ただし保証料率が0.2%上乗せされる
  • 事業承継の場面には事業承継特別保証制度がある。限度額2億8,000万円で経営者保証は不要。ただし資産超過であることなど、財務の要件がつく

つまり、借り手のリスクは確実に減っている。

ただし、勘違いしてはいけないと思ったことが2つある。

ひとつは、保証が外れても借金が消えるわけではないということ。 最後に背負う主体が個人から法人に移っただけで、事業を引き受けた法人の借入が重い状態は、次の一手を確実に狭める。 事業承継特別保証が「資産超過であること」を要件にしているのが、その裏返しだと思う。

もうひとつは、貸し手のリスクが消えたわけでもないということだ。 調べてみると、貸し手のリスクは保険のかたちで後ろに流れていた。 信用保証協会が金融機関に対して保証をし、その保証にはさらに日本政策金融公庫の信用保険がかかっている。 返せなくなれば保証協会が金融機関に代位弁済し、その7〜9割を公庫の保険が埋める。

誰かがリスクを消したのではない。 個人が背負っていたリスクを、制度が引き受ける側に移しただけだ。 そして、その移し先が引き受けてくれるかどうかの判断材料が、実績と財務なのだと思う。

出典:日本政策金融公庫「新規開業・スタートアップ支援資金」「経営者保証免除特例制度」「信用保険業務」、中小企業庁「スタートアップ創出促進保証」、全国信用保証協会連合会「事業承継特別保証制度」(いずれも2026年9月時点)

8. 人生に、ショートカットはない

やはり、人生にショートカットはない。

事業を買うにしても、資金が要る。 そして、その資金を借りるための条件が、実績だった。

つまり、実績を上げて証明するしかない。 資金を作って、資金を借りられるようにするしかない。 そういう仕組みが存在していることが分かった。

保険と同じ仕組みだな、と思った。 健康なときは保険に入れるが、健康でなくなると入れない。 制度が後ろで保険をかけてくれていても、その保険に入れるかどうかは、こちらの状態で決まる。

資金を作るか、信用を得るか。 独立して最初に突き当たる課題を、ここで改めて突きつけられることになる。

だから、短期的に稼がなければ、長期的に投資をしたいフィールドに資金を回せない。 そういう構造があることも理解した。

結局、私はお茶の事業を買えなかった。

(次回:お茶は、実績を積んでからにする)

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